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adore倉庫

右側兄さんのSS置き場。がくカイが主。
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殿視点。救いがないです。

こちら視点にすると、もうどうしようもないなーと思いました。
書いていて楽しいのは残される側という。


 つらそうな表情を浮かべる彼になにも出来ない無力な自分が悔しくて仕方ない。
 他の誰かだったら、もっと上手く行動できただろうか。
 今まで経験の短さを歯がゆく思うことはなかった。でも今は、頬を撫でることしか出来ない自分が腹立たしい。
 いっそ、変われればいい。彼が感じているものすべてを。

「――――っ!」

 頬を撫でていた手が滑り落ち、彼の体が大きく震えた。
 
「あっ、……っく――ふ」
 
 浅い呼吸を繰り返し、苦しそうに体が折り曲げられた。一瞬驚いたものの、すぐにその体を抱きしめる。
 この触れ合っている場所から、どうしてこの痛みを移せないのだろう。
 そんなことを考えていると、なにかが手に触れた。未だわなないだままの、彼の手。そっと、つなぎ合わせるように指を絡める。
 
 ――――どうして、こんなに早く『終わり』が来てしまったのだろう。
 
 主以外を想った報いなのだろうか。――それなら、彼より自分のほうが壊れるべきだ。
 引きずったのは、こちらなのだから。

「だいじょ……」

 耳に届いた嗚咽以外の言葉にはっとして、彼を見る。澄んだ声はノイズが混じっていた――けれど、変わらない自分の好きな声。

 ――――また、帰ってくるだろうか? 『彼』が。

 忘れてしまっても、また名前を呼んでくれるだろうか。あの響きで。
 抱く腕に力を込めて、痛みを宥めるように髪に触れる。

「カイト……」

 名前を呼ぶと、体が預けられた。こちらを見上げてくる顔は、ひどい色だ。
 まだ、自分の声は聞こえているのだろうか? 聞こえているから、体を預けてくれたんだろうか?

「……カイト」

 もう一度、大切な名を紡ぐ。

「――――愛してる」

 たとえ、忘れてしまっても。その中に『彼』がいるなら、薄れることのない想い。

 強い願いを込めて、微笑みかけていた唇に口付けた。

 
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