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右側兄さんのSS置き場。がくカイが主。
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まったく関係ないSS(悪ノシリーズ)

とりあえず、過去の遺物が出てきたのと某方からご要望があったので、載せてみる……。
色々ひどい出来です。レンタンがちょっくら黒かったりします。
リンの無邪気さは正義だと思ってm(ry

出てきたときの状態そのままなので、思い切り途中で止まってます。
続きは……気が向いたときにでも←

















 遠くに聞こえる人々の声。耳障りな金属音。
 もうすぐ、もうすぐ、ここに大勢の人がやってくる。
 その前に、僕は彼女に復讐をしなければならない。


 一番憎くて、一番大切な君に。


「あたしだけ逃げるわけにはいかないじゃない!」
「いいから、逃げるんだ」
「だって、全部あたしがやってきたことなのよ!? あたしがここにいなきゃっ」
「リン!」

 リンの名前を強く叫ぶと、彼女の体がびくりと震えた。肩をすくめ瞳を閉じている。
 ……きっと、初めて聞く僕の大きな声に驚いているのだろう。
 今まで、僕はずっと彼女のそばで笑っているだけだったから。
 あの子を突き落としたときもずっと……。
 わざと大きなため息をつくと、リンが恐る恐る顔を上げ始める。
 そんな仕草にやっぱり子供だな、と苦笑してしまう。

「リン、君は逃げるんだ」
「だって……」
「この国はもう終わる。でも、君が生きていればまた……」

 ――王国を再生できるかも知れない。

 そう微笑んで思ってもいない言葉を続ける。
 リンがここで生き延びても、きっとまた王座に就くことはない。彼女を飾り物にしようとする人間はもういないのだから。

「でも……」 
「大丈夫、僕もスキを見て逃げ出すから」

 笑顔のままリンの手を握り締める。

「…………本当?」

 不安そうな色を浮かべた瞳が、僕を見つめてくる。
 安心して彼女が逃げられるように、力強く頷いた。

「……本当だよ。だから、あの花畑で待ってて」

 引き裂かれる前に、まだ僕らがただの双子でいられたときに、よく遊んだ場所で。
 なにかを考え込むようにリンが指を唇に当てる。弾かれたように動いたかと思った瞬間、僕の小指が彼女の小指と絡ませられた。

「約束よ? レン?」

 僕よりも幼さが残る瞳で、僕と同じ顔が無理に笑っていた。
 断ち切るように瞳を閉じ、僕はなにも言わずに指を解き、彼女の背中を押した。
 遠ざかっていくひとつの足音とは別に、大勢の足音が近づいてい来る。
 もしかしたら、僕も座っていたかもしれない王座に腰を下ろす。
 もうすぐ、もうすぐすべてが終わる。
 この国も『リン』も僕の復讐も。
 扉が乱暴に開け放たれ、赤い甲冑を身にまとった女剣士が僕を射抜くような視線で捕らえる。
 その視線を受け止め、僕は彼女を見返す。
 目が合うと、彼女の瞳がやや揺らいだ。

「……王女は――悪ノ娘はどこにいるの?」

 凛とした声が部屋に響く。――気付かれた? でも、邪魔はさせない。
 くすりと、唇をゆがめ、剣士を小ばかにするように首を傾げる。

「目の前にいるのにわからないの?」

 ずっと、王女をそばで見てきたんだ。彼女のの笑い方、喋り方、仕草もすべて再現できる。
 玉座から立ち上がり、彼女たちのほうへと足を進めた。
 カツン、カツン、と靴音がやけに静まり返った部屋に響く。

「……あなたは……」
「悪ノ娘はここにる! あたしこそがこの国の王女! すべてを手にする者!」

 大げさに両手を広げ、挑発的な笑みを浮かべる。

「愚かなあなたたちにはわからないかしら?」

 可愛い可愛いリンの仕草。僕が知る限りの、一番綺麗で一番醜い笑い。

「そうだ! あの娘がすべての元凶だ!」

 女剣士がなにかを言う前に、民衆の一人が叫びだす。その声に触発され、声が、手が、四方から僕を蹂躙し、王女はあっけなく囚われた。



 石畳の冷たい感触に、ふとリンのことを思い出す。
 彼女はまだあの花畑で待ってるんだろうか。永遠に現れない僕を求めて。

「……ごめん、リン……」

 でも、そうでも言わなきゃお前は動かなかっただろ? 小さいときから変わらない、ワガママは言えるのに、
いざというときになるとためらってしまうんだから。
 寝込んでいた父さんにあげる花を摘みに行ったときも、城から抜け出すことを怖がっていた。
 なのに、花畑についたら、僕よりもはしゃいでたくさん花を摘んでいた。少し前のことなのに、ひどく昔のことに思える。
 くすくすと笑っていたら、ふいに足音が聞こえてきた。
 ――誰だろう? 王女(僕)の元を訪れるものなんていないはずなのに。
 暗闇の中、目を凝らす。見えてきたのは細い女性のシルエット。
 栗色の瞳がじっと僕を見てくる。――先頭にいた女剣士だ。

「あなた、どこまで彼女を庇うの?」
「なんのこと?」
「あなたは王女じゃないでしょう!?」

 囚われたときと変わらない僕の答えに苛立ったのか、彼女がそう叫ぶ。
 ああ……やっぱり、あの一瞬で気付かれてしまったんだ。
 自嘲げな笑みを浮かべて、僕は静かに首を振った。

「あたしは悪ノ娘」
「冗談言わないで! あなたはただの召使じゃない!」

 『ただの』召使? 違う、僕はただの召使なんかじゃない。

「身代わりに死ぬのよ? それでもいいの?」
「……それで、いいんだよ」

 そう、これは僕が望んでいることだから。
 僕の答えが予想外だったのだろう。彼女は目を丸くして、ただ僕を凝視している。

「僕が王女として死ねば、『悪ノ娘』はこの世からいなくなる」
「だから……」
「でも、『リン』は生き残れるんだ」
「……え?」
「『リン』は誰にも殺させやしない。『王女』も、だ」

 僕の言葉が理解できない様子で、女剣士は黙ったまま先ほどから動かない。
 『リン』も『王女』も誰かの手にかかるなんて許さない。
 『王女』を誰よりも憎んでいるのは、僕なんだから。
 あの子――緑の髪の子を突き落とした感覚を僕はまだ忘れない。
 そして。
 『リン』を誰よりも愛してるのも、僕だ。
 なにも分からず、飾り物にされ、すべての責任を押し付けられた僕の片割れ。

「『王女』がここで死ねば、誰ももう『リン』を追わない」

 『王女』に復讐が出来、『リン』を守れる最良の方法。

「リンが悪ノ娘だって言うのなら、僕にだって同じ血が流れてる。文句は言わせない」

 リンを愛しているのに、殺したいほど憎かった。彼女より、きっと僕のほうが……。

「……すぐに気付かれるわ……だって、あなたと王女じゃ体格が微妙に違うもの」

 どこか哀れむような彼女の言葉に、僕は薄く微笑んだ。

「きっと、誰も気付かない。皆が望んでいるのは『リン』の首じゃなくて、『王女』の首だから」

 記号として誰かの首が落ちればいい。それなら、僕以上に最適な人間がいるだろうか。
 カツリ、と複数の足音が牢に響く。……どうやら、時間らしい。
 戸惑うような彼女に向かって、僕は静かに口を開く。

「王女は僕が殺す。リンは誰にも殺させない」 

 彼女はなにか言いたげだったが、衛兵に僕が連れ出され、何も聞けなかった。


 連れて行かれた広間には、大勢の人が集まっていた。皆、悪ノ娘の最後が見たいらしい。
 断頭台の階段を一段一段上っていく。
 処刑の時間は三時の鐘が鳴り終わったら。
 ぐるりとあたりを見回す。――ある一点で僕の視線が止まった。


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