adore倉庫
右側兄さんのSS置き場。がくカイが主。
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11月24日(るしあさんのイラストに触発されて)
――冷たい。
まだそう感じることに、苛立ちすら覚える。
早く感覚を消してしまいたいのに。終わりがいつまでも近づいてこない。
こんなところで寝転がってる人形が珍しいのか、時折きまぐれに声をかけてくる人間がわずらわしくて仕方ない。
あの人の声以外、雑音にしかならない。優しい言葉も賛辞も、意味がない。
反応を返さずにいると、大抵の人間が諦めて去っていく。
遠ざかる足音と訪れた静けさに息がひとつ零れ落ちる。
喉がちくりと痛んだ。……一体、もうどれくらい声を発していないだろう。
一番、聴いてもらいたい存在がどこにももういない。それに気付いたとき、歌を紡ぐのが空しくなってやめた。
万人のための歌よりも、たった一人のために歌を奏でるのが好きだったから。
歌い終わった後、「綺麗だ」と笑ってくれる顔が好き、だった。
頬にひやりとしたなにかが触れた。あの人の指先に似た感触。肌にしみこむようにじわりと溶ける。
ゆっくりと視界を白いものが通り過ぎていく。
――――雪。
冷たくて、その白さがすべてを拒絶しているようであまり好きではなかった。
けれど、あの人が好きだといい続けていたせいで、そこまで嫌いではなくなった。
雪は誰にでも平等に冷たさとぬくもりを届ける。それに、世界の音を閉じ込めて降ってくるから好きだと。
自分の歌声がどんな場所にいても聞こえるような気がするからと。
感じた嬉しさを素直に伝えればよかった。変な意地を張って、ごまかすような言葉を返してしまった。
ほんのわずかな後悔と懐かしさに、唇が自然と緩んだ。
「……冷たい……」
ぽつりと呟いて、ゆらゆらと降ってくる空に手のひらを差し出す。
久方ぶりに出した声は、歌うために作られた人形にしてはひどく掠れていた。
一瞬、驚いたがすぐに嘲るように笑みを浮かべる。
――早く、早く壊れてしまえばいい。そうすれば、あの人にもう一度会える。あの人のところに逝ける。
音もなく世界を埋めるように落ちてくるものに、自分も埋めて欲しいと強く願う。
手のひらに迷い込むように落ちた雪片を握り締めて、きつく目を閉じた。
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HN:
月森
性別:
非公開
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