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右側兄さんのSS置き場。がくカイが主。
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ぶつぎりファンタジー

Sound Horizon 「恋人を射ち墜とした日」に触発されたもの。
名前を出さないように、と試みて思い切り失敗……。
わけがわからなくなったのはいつものことd(ry









 水の中に放られた、わずかに繋がっているだけの腕。本来なら肉が見え、骨が見え、赤い体液が流れ出るはずの破損。
 うなされるように閉ざされた瞼と額に浮かぶ無数の汗が、彼が感じている痛みの強さを表している。けれど、水は赤く染まらない。
 捨てて――遮断してしまえるはずの、痛覚をなぜまだそのままにしているのかわからない。
 都合のいいように作られているのに、どうしてそれを利用しない。
 ぽとり、と体の内側になにかが落ちて波紋を描く。
 その残響に急かされるように、足を動かした。
 踏みつけた木の葉の音に、ゆるゆると瞼が開かれていく。うつろげな青い瞳が、こちらの姿を捕らえる。

「……喰われるよ、もうじき」

 それまで気配も声も押し殺していた影が背後でぽつりと呟いた。

「あまり相性はよくないって、言ったよね?」

 だから、そばにいるなって言ったのに……。

 哀れむように、嘲るように目が伏せられる。
 似すぎていてもいけない、違いすぎてもいけない。
 
「あまり、だったのだろう?」

 苦々しい視線を突きつける彼女―彼かもしれない―に、口早に返す。

「……歩み寄り過ぎたんだ」

 時折混じる、少年の声。かつて存在していた――彼女が食べてしまった、大切な片割れ。

「今あのヒトに近づいたら、あたしと同じことになるわよ?」
 ――それでもいいの?

 そう幼い少女の唇が綺麗に歪んだ。
 弱まった核は、同じ核にとってこれ以上ない餌になる。自分がより長く保てるための養分。

「ずっと一緒にいられるから、あなたもそうする?」

 ふわふわとどこか壊れたように笑う声。外見から想像される年齢にはひどく似つかわしくない、退廃的な艶を含んだ笑み。
 すっ――表情を失くした唇から、触れられなければ意味がないのにね、と零れ落ちた。

「心なんて、通わせなければよかったのに……そうしたら、まだ笑っていられたのに」

 ――あなたもあのヒトも、あたしも。

 誰に聞かせるでもない独白になにも返さずに、今にも消えてしまいそうな彼の傍に座り込む。
 そろり……と伸びてきた手を握り、さらに白くなり始めた指先に唇を寄せる。

「……らしく、ないですね……」

 かすかに込めた贖罪を感じ取ったのか、そうかすかに笑われる。

「……俺のせいだろう?」

 今までなんの危害も加えられず、静かにいつか止まる日を夢見ながら主の墓を守っていた彼に変化を投げたのは自分。
 同じ、歌うために作られたものだと知り、歌って欲しいと言った。
 片割れの核を消費しないよう、彼女は歌を捨ててしまったから。いつも、自分だけが歌を紡いでいた。
 久しぶりに自分以外の歌を聴きたいと、願わなければよかった。
 人では生み出せない歌声に、彼が人形であると気付いた周囲の人間に核を狙われ始めた。
 それが、目の前の惨状に繋がった。

「構わ、ないですよ。俺は……」
 ――このまま誰かの手によって朽ちるよりは、あなたに飲まれたほうがいい。

 初めて見たときよりも柔らかい色を湛えた瞳が、変わらない強さでこちらを見てくる。

「それに」

 ツイ……とやりとりを見守るように立っている彼女を一度見て、薄い微笑を浮かべた。

「取り込まれた核を切り離す方法を探してるんでしょう?」
 ――それが見つかるまで、貴方に預けるぐらい、大目に見て下さい……。

 静かに紡がれた言葉の後、激しく咳き込み始める。

「――――っ!」
「早く、決めて……」

 そろそろ限界だ。取り込めば、またいつか会えるだろうか……。
 何度目かの逡巡の後、握り締めた手を引き寄せ、空いている手を胸につきたてた。



 さらさらと崩れていく彼の体を完全に消えてしまうまで抱いていようと思った。
 いつかの彼女がそうしたように。
 きっと、あのときの彼女もこんな気持ちだったのだろう。
 薄れてしまわないように、ずっとこのぬくもり覚えていられるように。また触れられるようにと、決意を固めるために。

「……足音……」

 明後日の方向を睨みつけながら呟かれた言葉に、名残惜しさを堪えて彼の体をそっと地面に横たえる。
 
「これで、あなたもあたしとおんなじね」

 途中でやめることなんて、もう出来ない。絶対に。
 
 嬉しそうに笑う彼女に「ああ……」と短く返し、誓いの意味を込めて彼に口付ける。
 また、触れられる日が来ることを願って。




(触発されたもの:Sound Horizon 「恋人を射ち墜とした日」)
 
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