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adore倉庫

右側兄さんのSS置き場。がくカイが主。
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ユキウタ

yuki-KA
illustration:るしあ様


唯一、本として出ている(2009.03.12現在)がくカイのノリで。
幼女マスターは正義です。







「あ――」

 ゆらゆら、はらはら。頼りなげに窓の外を横切るものに気付いて顔を上げた。
 雪、だ。
 あの人が好きで、自分はあまり好きではなかった白い冷たいもの。
 暖かい空気に満たされた部屋を出て、空を見上げる。
 灰色の黒い空から、静かに静かに、音もなく落ちてくる。

 ――――今なら、きっと届く気がする。

 あの人がいなくなってから、歌わなくなってしまったけれど。
 他人が作った歌は、どこか受け入れられなくて、どれも歌えなかった。
 いつも口ずさむのは、あの人が作った歌。
 ほら、歌おうとすれば意識せずに体のうちから溢れてくる音たち。
 溢れるままに、紡ぎはじめた。



「雪降ると、いつもね」

 ぽつりとした幼い主の呟きに、読んでいた本から視線を外す。
 曇り始めた窓ガラス越しに、歌う細い体が見えた。
 たいした防寒もせず、部屋にいたそのままの姿で歌っている。――とても、幸せそうに。

「……妬けるか?」
「それは貴方のほうでしょう? 神威」

 予想外の答えに、一瞬だけ思考が止まった。――なるほど、この小さな主には悟られているらしい。

「ねえ、貴方たちも風邪引くんでしょう?」
「滅多に引きはしないと思うが……」
「あの歌が終ったら、カイト連れてきてね?」

 絶対よ? と無邪気な瞳に念を押され、苦笑を浮かべながら頷いた。
 まともに歌を聞くのはこれで何度目だろうか……。
 1番最初に聞いたのは、途切れ途切れの歌声。その後も滅多に歌うことはなかった。
 雪の降る地域を訪れて、白いものを目にした途端、滑らかに紡がれた旋律は今でも忘れることはない。
 気付かずにいた感情を引き出された。それほど、強い衝撃だった。その姿にしばし見蕩れていたほど。

「――そろそろ終わるわよね?」

 言外に早く迎えに行けという雰囲気を察し、掛けられていた外套を手に取った。
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