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右側兄さんのSS置き場。がくカイが主。
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雪幻に触発されてみた(微妙に11月24日のとつながってたり)

 聞こえてくるのはいつか流行ったこの時期によく歌われる歌。
 歌うために、と作られたせいか、もうろくに紡げもしないのに無意識に口ずさんでいることに気付く。
 もうすぐ止まる、のだろう。指先や足、すべての感覚がひどくにぶい。
 この視界に映る、彼と同じ姿をした別人も、もう見なくて済むのかと思うとひどく安心する。
 ショーウィンドウに飾られている、瞳を硬く閉じた青年。その下の瞳の色は、自分より少し明るい色だ。
 柔らかく閉ざされている唇から生み出されるのは、艶のある低音。なめらかな、肌。
 もう二度と、触れることのない――触れられることのない存在。
 ――――奇跡が起きる日。作られた自分にもそれを願うことは許されるのだろうか。
 もし、許されるのなら……。名前を、呼ばれたい。
 ただ、それだけでいい。
 望むのはそれだけ。あの長い指が髪をすいて、からかうように頬に触れて……名前を……。
 そこまで考えて、ありえないことだと唇が歪んだ。
 行きかう人の間を埋めるように降り始めた雪に、空を見上げる。
 白と黒だけになってしまった視界でも、その存在は確かだ。
 かつて冷たいと記憶していた結晶が、今は暖かいと感じる。
 自分の存在が許されている時間は、もうあとわずか。
 消えて止まってしまう前に、夢に似たものを見るのぐらい許されるだろう。誰にも気付かれない、ひそやかな幸福。

 終わりを迎えようとしている体はスムーズに動かず、望みのものを引っ張り出すのに苦労していた。
 処理の遅さに諦めてかけていたとき、ぱっと脳内に映像が広がった。
 真摯に自分を見つめてくる明るい青空色の瞳。伸ばされる手。触れるぬくもり。そして――。

『――イ、……』

ノイズ混じりに紡がれた、名前。 

――じゅうぶんだ。

 そう呟いた直後、ぷつりと世界が途切れた。
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